特集/コラム

【新サービス】2008-01-16

「飢餓」と「肥満」をマッチング
〜世界中の人々に健康な食事を届ける、TABLE FOR TWOのコーズ・プログラム

開発途上国における飢餓、栄養失調の問題と、先進国における飽食、肥満の問題。NPO法人TABLE FOR TWO(以下、TFT)では、こうした世界の食の不均衡を解消するために、両方の立場にいる人々に健康で幸せな食卓を届ける、食をテーマとしたコーズ・プログラムを展開している。プログラムの内容についてTFT事務局の小暮真久さんに、またプログラム立ち上げの際の想いと経緯について、衆議院議員でTFT代表理事を務める古川元久さんに、それぞれお話を伺った。

食の不均衡
世界の人口60億人のうち、開発途上国に暮らす約10億人の人々が食べ物がないことによる飢餓や栄養失調に苦しんでいる一方で、先進国に暮らす約10億人の人々は食べすぎによる肥満や生活習慣病に悩んでいる。開発途上国では、5秒に1人の割合で5歳未満の子どもたちが栄養失調や飢えが原因で命を落としている。一方で、先進国の中でも栄養バランスの良い国だと言われてきた日本も、最近では「メタボリックシンドローム」という言葉が広く使われるように、大人から子供までが食生活の変化による肥満やそれに伴う生活習慣病の問題を抱え、それが次第に深刻化してきている。
TFTは、こうした食の不均衡を解決し、開発途上国の人々と先進国の人々の両方の健康を増進することを使命として活動している。
 
TABLE FOR TWOのしくみ
TFTは、先進国の人々にヘルシーメニューを提供し、一食につき20円がTFTを通じて開発途上国の学校給食に寄付されるしくみになっている。学校給食の配布は、TFTの提携機関である米国のNPOミレニアムプロミスや国連世界食糧計画(WFP)によって行われる。「1つのテーブルを囲んで先進国の参加者と開発途上国の子どもが、時間と空間を超えて一緒に食事をする」というプログラムの主旨から、TABLE FOR TWO〜ふたりの食卓〜という名前が付けられた。

プログラムは参加企業や市役所の食堂、カフェテリアなどで実施される。2007年2月に伊藤忠商事の社員食堂から試験実施が始まり、その後ファミリーマート、日本IBM、日本航空、横浜市、NEC、富士通、ポーラ・オルビスホールディングスなどで試験的に実施された。試験期間中は4万1千食を提供し、200人の子供たちへ1年間分の給食を届けることを目標とした。女性社員の多い化粧品会社のポーラ・オルビスホールディングスでは、女性向けの健康メニューを栄養士やシェフが開発したところ人気メニューとなり、同社5拠点での展開に広がった。また他にも、活動に共鳴したシェフから100種類近くのメニューが提供されるなど、多くの参加者の共感を得ることができた。こうした成功をもって、2007年12月からは本格的な企業とのコラボレーション展開が開始されることとなった。
 
プログラムのはじまり
同プログラムは、日本の「ヤング・グローバル・リーダー(YGL)」たちによって生み出された。YGLとは、スイスの民間経済研究機関である「世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)」が、2020年までによりよい世界をつくることを目的として選出する、将来国際的な活躍が期待される世界各国の40歳以下のリーダーたちのことである。YGLたちは、グローバルな課題に対して具体的にアクションを起こしていく複数のグループを構成している。例えば、企業に対して環境問題への積極的な取り組みを啓発するためのプロジェクトや、実際に学校を訪問して子供たちと触れ合う教育プロジェクトが展開されている。TFTのフレームワークを考え出したメンバーは、NPO法人医療政策機構副代表理事の近藤正晃ジェームス氏、伊藤忠商事コーポレートカウンシルの茅野みつる氏、ユニクロUSA CEOの堂前宣夫氏、衆議院議員の古川元久氏の4名である。

この4名は昨年6月に行われたYGLサミットに出席したメンバーで、環境、教育などテーマごとのセッションが行われた際に、Health Careをテーマとするグループに参加した。そこで、大きく2つの課題を参加者と共有した。1つは先進国における生活習慣病の増加、それによる医療費の増大という課題で、もう1つは途上国における飢餓・貧困の問題であった。

日本に戻った4人は、他の日本人YGLメンバーに呼びかけて、この2つの課題に対して何かできないかということを話し合った。その過程で、茅野氏と同じ伊藤忠商事の取締役会長でありWFP日本協会会長も務める丹羽宇一郎氏より、途上国支援に関する課題を聞いた。それは、アフリカのように飢餓が蔓延している地域では、ワクチンや薬といった医療支援の前にまずは薬の副作用などにも耐えられる体力をつけるための食糧の提供が必要とされているということと、日本のODA削減傾向も含めWFP日本における資金調達の厳しい現状についての話だった。
 
日本に根付くプログラム、日本を発信するプログラム
TFTは、寄付文化の無い日本に寄付文化を根付かせるきかっけとなるようなプログラム内容になっている。日本に限らず先進国では、体にいいものであれば多少高くてもお金を出すことを躊躇しない人が多い。同プログラムで一食につき寄付される20円は、通常の価格に上乗せされているものだが、一方的な施しではなく参加する本人にとっても健康によいというメリットがある。寄付する方にもメリットがあるプログラムのしくみによって、貧困や飢餓問題への継続的な寄付を可能としている点で他のよくある寄付とは異なる新しい仕組みになっている。プログラムの創設メンバーの一人である古川さんからは、次のようなお話を伺った。

「TFTは、西洋の“ドネーション”とは少し異なる発想で、相手へ一方的に施すだけではなく自分がそれによって救われることにつながるという意味で、仏教の『お布施』に近い思想に立ったプログラムです。グローバルな課題への取り組みに対する日本の取り組みは、これまで資金提供にとどまることが多く、国際社会での日本の存在感は希薄です。例えば3大感染症対策では、日本は世界基金に5億円という多額の資金を提供していますが、実際に活動している人は欧米人が中心です。今後は経済的な貢献も限られてくる中で、日本が世界の中でどのようにその存在感を示していくのか、大変危惧しています。その意味でTFTのプログラムは、世界的課題を日本的なスピリッツに立った新しい枠組みで解決していく方法として、日本から世界へと発信していきたいと考えています。」

TFTは、まさに日本らしさ、その長所を生かした国際協力の方法でグローバルな課題取組むものであり、また同時に国際社会における日本の存在意義を高めることのできるプログラムであると言える。過去7回のダボス会議に出席している古川さんは、グローバルな課題の解決のためには2つの方向性があると考えている。ひとつは、グローバルな課題をよりローカルに、個々人の生活に落とし込むスキームをつくるということである。ふたつ目は、対立関係に陥りがちな先進国と開発途上国が、お互いに歩み寄ることのできるような“Win-Win”のしくみをつくるということである。TFTでは、この二つに答えられるしくみを実現している。
 
日本らしさというと、古川さんには好きな言葉があるという。それは、「足るを知る」という言葉である。自分自身が「足るを知る」ところから、他人のことを思いやる気持ちが生まれ、それが共生の社会を築いていくことにつながっていく。TFTを通じて、日本から世界の人々に伝えていきたいメッセージであるといえる。
 
TABLE FOR TWOのこれから
TFTは2007年10月にNPO法人格を取得し、本格的な活動を開始したばかりである。世界の食の不均衡を改善するという大きなテーマは、5年や10年で解決することのできる問題ではなく、古川さんはライフワークとして行っていきたいと考えている。古川さんは、特定保健用食品のように、TFT基準でヘルシーな商品にマークを貼り、そのマークがついた商品を購入すると寄付されるというような展開を夢として持っている。事務局の小暮さんは、先進国の人々に途上国での課題に対して実感を持って取り組んでもらうために、寄付先の学校や子どもたちと、プログラムに参加する人を直接つなげられるような情報発信やスキームを作っていきたいと考えている。
 
今後の広がりとしては、日本以外の国でのTFTプログラムの実施を準備しており、NYやインドでの活動拠点の設置が決まっている。開発途上国では貧富の差が激しい国も多くあり、富裕層の人々が肥満の問題を抱えていることも少なくない。そうした意味では、開発途上国内でも成立するプログラムであると言える。また大学生の食生活を改善するために、大学生協での展開も行いたいと考えている。さらに、プログラムの質を高めていくための「ヘルシーメニュー」の検討として、食材の工夫や、カロリーが低くてもボリューム感があるような「我慢しない」メニュー開発も進めていく。
 
同プログラムは、世界中全ての人にとって必要とされるコーズに対峙している点で興味深い。食生活の改善は決して短期間で効果が現れるものではない。参加する先進国の人々と、その向こう側にいる開発途上国の子どもたちにとって意義あるプログラムとなるよう、より多くの企業や機関で、継続的に実施されることが望まれる。
 
写真説明:
1.プログラム実施企業の食堂風景 2.TABLE FOR TWOのロゴ
3.衆議院議員でTFT代表理事の古川元久さん 4.プログラム実施企業の食堂風景
 
取材/執筆:西山庭子(株式会社ソシオ エンジン・アソシエイツ)
 

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